昭和美貌録(4)






「昭和の巨星墜つ」の報に錯乱のうえ
意図不明の悪ノリ、失礼致しました
この7月2日に他界されました漫画家
桑田次郎(二郎)先生の、鋭く美しい
描線は、昭和ロマンの最高峰として
かねてから欣慕の一途でございました
代表作の一つ「エイトマン」(これは
TBS系で放映されたアニメのタイトル
表記で、少年マガジン誌に連載された
漫画版は「8マン」) その8マンから
モダンな造形美が際立つ東京タワーの
シーンをオマージュさせて頂きました
13才の貸本マンガ家として、商業誌
デビュー最年少記録に輝く早熟の天才
はその人生においても、スーパーロボ
ットの貴公子エイトマンよりもおモテ
になったそうで、元有名少年漫画週刊
誌の編集長から直接伺った、とってお
きのエピソードをご紹介しますと……
何処からともなく(笑)桑田先生が
明け方、足音を忍ばせてご帰宅さ
れそのまま布団に横たわられると
お隣に臥せておられた彼女がムッ
クリと起き上がり、無言のまま
台所のガス栓を開いて戻られる
察知された先生が起き上がって
ガス栓を締めて就寝。暫くして
また女性が起き上がり、ガス栓
をひねって戻ると頃合いをみて
先生が再度台所へ行かれる(笑)
かくして仁義なき無言の修羅場が
連日展開されたそうです。拳銃不
法所持による桑田先生の逮捕事件
の密告者も何となく…ムニャムニャ
しかし、なんとも昭和の香り漂う
お話はうらやましいかぎりで私も
気品と哀愁を兼備したエイトマン
なら是非とも心中をお願いしたい
ところですが、青酸ガスでも火炎
放射器でも死なない相手(アニメ
第2話「殺し屋ゲーレン」の台詞
凄い昭和感!)では苦戦必至ですワ
桑田先生、あなた様はきっと
きっと、亡きミラノの大貴族
モドローネ伯爵こと、ルキノ
ヴィスコンティ映画監督がその
寵児であった、アランドロン氏
との共通項としてお二人の強い
絆に触れておられる、あの性情
「人生において仕事をしている時
以外は決して幸福になれない」
世界の方ではなかったでしょうか
監督ご愛用の英国の香水、ハマム
ブーケの芳香とともに、60年代
絶頂期を彩る傑作「エイトマン」
に接する時、かぐわしいまでに
詩的な情景に浸れる、桑田先生
あなた様は唯一の漫画家でした
私にとって「エイトマン」は
苦悩に射抜かれた美の宇宙で
闘う、異形にして孤高の戦士
その、星からのメッセージを
決して忘れることはありません
ご冥福を心からお祈り申し上げます